板木を意識して板本を観る-付・板木デジタルアーカイブの紹介(板本・板木をめぐる研究集会) Part5

板本・板木をめぐる研究集会」2日目の午後1コマ目(プログラムでは午前中の3コマ目だったのですが時間がおしていたために午後になりました)は板木デジタルアーカイブの話。とはいえデジタル化の話だけでなく,初日の永井先生のご講演に続いて板木から何がわかるかについて具体的な事例をあげて紹介してくださいました。個人的には一丁だけでなく複数丁の板本の匡郭高から板木の形態を推測するところが興味深かったです。この推測方法は板本比較で板木が現存しない場合でも使用できそうですね。

講演資料にある英数字の記号を「板木閲覧システム」や「書籍閲覧システム」で検索すると板木や板本のデジタル画像を見ることができます。板木閲覧システムと書籍閲覧システムのさらなる連携が検討されているということでしたが,Googleマップで地図と航空写真を簡単に切替られるように,板木の鏡像表示の画面で対応する板本の部分が表示できたらおもしろいのではないかと思いました。


演題:「板木を意識して板本を観る―付・板木デジタルアーカイブの紹介」(板木・板本をめぐる研究集会)
講師: 金子貴昭氏 (立命館大学GCOE・PD)
日時: 2012年2月5日(日)
場所: 立命館大学アート・リサーチセンター 多目的ルーム
立命館大学グローバルCOEプログラム 日本文化デジタル・ヒューマニティーズ拠点

  • 板木は四丁張で左右の天地が逆になっていて反り止めがつくといった形式のものが多い
  • 二丁張: 文政13年(1830)刊『出雲物語』(奈良大学所蔵,N0003)
  • 四丁張: 明和9年(1772)刊『怡顔斎蘭品』(奈良大学所蔵,T0587)
  • 六丁張: 貞享3年(1686)刊『東見記』(奈良大学所蔵,T0003)
  • 八丁張: 万治3年(1660)刊『弘安礼節』(奈良大学所蔵,T1115)
  • 十丁張は見たことがない
  • 横本六丁張: 嘉永4年(1851)刊『煎茶要覧』(藤井文政堂所蔵,F0001)
  • 1枚の紙で1度に三丁分刷ってしまいあとで紙を三つ切りにする

入木

  • 入木は内容を訂正するために使われると一般的に理解されている
  • 宝永元年(1704)刊『呂氏家塾読詩記』巻二十二(一オ)の板本(立命館ARC所蔵 arcBK01-0033)を確認すると匡郭の一部と巻数が入木になっている。訂正するだけならば巻数部分だけでよいはずで,匡郭の訂正は必要ない。しかし板木(奈良大学所蔵T2384表,鏡像)を確認すると木の節があり彫りにくかったために入木をしたのではないだろうか。入木は内容の訂正だけでなく木材とうまく向き合っていくためにもおこなわれたのでは?

紙質の混在

  • 1点の板本で紙質が整っていない場合がある。
  • 弘化2年(1845)刊『和歌麓之塵』の近代摺(立命館ARC所蔵, arcBK03-0091)では四種類の紙が混じっている。紙質のばらつきを比較すると四丁ごとに紙質が異なっている。板木(奈良大学所蔵,N0151)を確認すると四丁張だった。

匡郭の寸法

  • 匡郭はその寸法による板の同定,収縮の度合いによる原刻と覆刻,初摺りと後摺りの比較判定につかわれている。
  • 『酔古堂剣掃』(立命館ARC所蔵,arcBK03-0066)や『太平遺響』(立命館ARC所蔵,arcBK03-0068)の板本の板心側を確認すると,匡郭の地側のラインは揃えられているが天側のラインが揃っていない。とはいえ全くバラバラではなくある程度のまとまりをもってバラツキが生じている
  • 初版の状態の板木が残っている四丁張の『手印図』(立命館ARC所蔵, arcBK02-0085)と六丁張の『夢合早占大成』(立命館ARC所蔵, arcBK04-0076)を調査したところ,板木の構造に従って四丁ごと,六丁ごとに匡郭高が変化している。
  • 板本の匡郭高を調べることでその板本が何丁張の板木で摺られたのかわかるのではないか。
  • 板下の匡郭を摺るための板木では匡郭高は一定しているので,はじめから板木の匡郭の寸法がバラバラでつくられたということは考えにくい。ではなぜ板木ごとにバラツキがでてしまうのか?
  • 板木は左右(繊維)方向には収縮率が小さいが,天地(接線)方向には大きいのでバラツキがでてしまう。
  • 摺られた板本の匡郭高から板木を推測することも可能。

板木の書誌学

  • 板木から得られる情報を蓄積することによって板木書誌学を構築し,板木書誌学から板本書誌学への批判・還元をおこない,板本書誌学をより強固なものにすることで近世文芸研究や出版研究に還元できるのではないか。

扱いづらい板木の性質

  • 黒い,長い,重たい,汚れるという板木の性質
  • 鏡蔵しないと判読が困難
  • 「板木は現存しない」という認識→質量ともに揃っている板木もある

板木デジタルアーカイブ

  • デジタル化することにより板木を活用できるように「板木閲覧システム」を構築
  • 4方向からライトをあてて板木を立体的にみえるように撮影
  • 鏡像でも正像でも表示が可能
  • 板木1枚ごとにメタデータを作成
  • 検索結果からは板木1枚と作品全体の両方の閲覧が可能
  • 板木で摺られた板本の一部は「書籍閲覧システム」で閲覧可能。今後さらなる連携を検討。
  • 現在はほぼ奈良大学の所蔵の板木のみだが,今後拡大を予定。

板木デジタルアーカイブ,展示記録