ディスカバリーサービス導入によって学術情報リテラシー教育はどう変わる?
ディスカバリサービスは図書館が提供している膨大で多様な学術情報資源をGoogleライクに検索できるインタフェースで,国内でも徐々に導入事例がふえてきました。先行する海外の大学図書館からはアクセスログ解析などからユーザの情報探索行動がどのように変化したのかについて報告もでるようになってきましたが,OPACやデータベースをベースとしておこなわれていた図書館の学術情報リテラシー教育にもすくなからず影響を及ぼしているのではないかと思われます。
香港で最初にSummonを導入し,「OneSearch」という名前で2012年春からbetaバージョンを公開したHong Kong Baptist University (HKBU 香港浸會大學) 図書館の方が書かれた論文でディスカバリーサービスと学術情報リテラシー教育についてふれられていたので少し眺めてみました(精読はしていません…)。
Dianne Cmor さんと Xin Li さんによれば,ディスカバリサービスの導入によって,学術情報リテラシー教育は,これまでのOPACやデータベースの検索方法(論文内ではそれらを最も象徴するものとしてブール演算を強調されています)を中心とした説明的なものから,リソースの識別,検索の絞り込み,結果の評価など批判的・創造的思考をうながすような探索型(適切な用語ではないかも)なものに変化していくことが必要ということらしいです。抽象的でわかりにくいのですが,具体的にディスカバリサービス導入後にHKBUではどのように学術情報リテラシー教育を変えたのかが紹介されていましたので備忘のためメモしておきます。
Dianne Cmor, Xin Li, (2012) "Beyond boolean, towards thinking: discovery systems and information literacy", Library Management, Vol. 33 Iss: 8/9, pp.450 - 457
DOI (Permanent URL): 10.1108/01435121211279812
HKBUの学術情報リテラシープログラムの種類
- uLife Library Orientation [*学部新入生対象]
- IMT (Information Management Technology) [*1年生対象]
- ENG2240 (Research Skills in English Language and Literature)
uLife Library Orientation
Current
- 蔵書検索システムで検索できるものとできないもの
- 蔵書検索システムでの図書と教科書の検索法(タイトル・著者名・キーワード・科目コード)
- 冊子体,電子リソース,マルチメディア資料にアクセスするための書誌所蔵レコードの見方
- トピックを検索するために必要なキーワードの確認
Revised
- GoogleとSummonで見つけられる情報の違い
- 検索結果を絞り込むためにSummonのファセットの活用(図書,論文,ビデオなど)
- 全文(冊子体or電子リソース)の入手
IMT (Information Management Technology)
Current
- ニュース記事を探すための新聞データベースへのアクセスと検索方法
- 雑誌記事と学術雑誌論文を探すための横断的なデータベースへのアクセスと検索方法
- トピックをブール演算とトランケーションを使用した効果的な検索クエリに変換する方法
- リンクリゾルバからフルテキストの確認方法
Revised
- 情報の種類とその利用(Webサイト,図書,参考図書,論文など)
- Googleを使うのがよい時とSummonを使うのがよい時との区別
- 検索を実行するための適切なキーワードの選定
- 引用の必要性の説明とSummonのcitation generatorの使用方法
ENG2240
Current
- 主要な文学・言語学の研究ツールの確認とアクセス方法
- 総合的な研究トピックから論文執筆の計画を練る
- 文学・言語学のデータベースを効果的に検索するための戦略を立てる
- 学術研究における図書と雑誌論文との役割の違い
- MLA あるいはAPAを使用して引用する
Revised
- 総合的な研究トピックから論文執筆の計画を練る
- 異なった情報資源の目的の効果を明確にする(カレントと歴史的な認識,一般的なと学術的な議論?)
- 異なった情報資源の質と関連性を批判的に評価する
- 検索結果をより向上させるために関連度を批判的に評価する(例えば見つかった資料種別はニーズや目的に見合っているか)
感想
やはり複数のプログラムをどう変えたのかが具体的にかかれているので理解しやすいですね。冒頭でも紹介したとおり,個別のツールの紹介や検索方法といった項目が削られ,情報資源の質や比較といった情報活用能力の習得をうながすような要素が付け加えられています。
ぼぉーと眺めてみると,CurrentではuLifeからENG2240へはOPACから専門的なデータベースへと内容が個別化していっているのに対して,Summonを導入したことによって,個別に説明が必要な要素は吸収されてしまい,ENG2240にいくにつれて一般化している点が興味深く感じました。もちろんある程度の文脈も必要なのでしょうが,一般化できるということは分野や機関に限らず学術情報リテラシー教育のコンテンツの汎用性もそれだけ高くなるのではと思いました。
実際にワークショップを受講した学生の感想などがあるとさらによかったのですが今後に期待ですね。