古典籍総合データベース―デジタルアーカイブの意義と将来(〈文化資源情報を考える〉 日本古典籍デジタル化と活用―その行方をめぐって) Part1

立命館大学アート・リサーチセンターで開催された「立命館大学大学院 文学研究科 行動文化情報学専攻 「文化情報学専修」新設記念連続講演会 第2回」に行ってきました。

第1回は行きそびれたのですが,

先行する早稲田大学古典籍総合データベースを担当されている藤原秀之氏を迎え、関西地区では初めてのプロジェクト紹介をお願いした。

というお知らせを見て出かけてきました。

 


 

古典籍総合データベース―デジタルアーカイブの意義と将来

立命館大学大学院文学研究科行動文化情報学専攻「文化情報学専修」設置準備企画連続講演会 第2回〈文化資源情報を考える〉日本古典籍デジタル化と活用―その行方をめぐって)
講師: 藤原 秀之 氏(早稲田大学図書館特別資料室 調査役)
日時: 2013年6月28日(金) 18:00-19:30
場所: 立命館大学アート・リサーチセンター 多目的ルーム

 

資料をめぐる人々の思いと図書館(資料館等)の役割
  • 今の利用者の思い : すぐに見たい・資料に触れたい→資料についての情報提供と公開
  • 未来の利用者の思い : いつまでも現状のままであってほしい→資料の保存と管理

一見,相反する思いにどう応えるか

→さまざまな原本代替資料による提供(影印・翻刻・マイクロ資料・電子媒体)

→しかし,所蔵する古典籍すべてを対象とすることは難しい

 

早稲田大学図書館の「古典籍総合データベース(古典籍総合DB)」
  • 早稲田大学図書館 : 1882年創立(130年の歴史と全学で550万冊の蔵書)
  • 図書館が所蔵するすべての古典籍を対象。従来の原本代替資料にはない質と量。原簿で約30万点ほど確認。
  • 古典籍を「近現代に刊行され一般に流布した(している)書籍以外の資料全般の総称」と考えることで広範囲な資料を対象とする。特定のコレクションや分野に限定しない。
  • 目録は図書館で作成するレベルのものでそれほど細かくはないが,まず資料の所在を明らかにすることが重要

→インターネットを通じて広く世界に開かれたデータベースは,より多くの人々に原本の存在と,その詳細を伝えることができる有用な手段

 

データベース作成の流れ

出庫→書誌作成→検品→画像撮影→検品→公開(WINE・古典籍総合DB)

書誌作成・画像撮影

  • 作業は原物によることが原則
  • 冊子目録そのままではなくDB作成のために新たに目録をとりなおす
  • WINE収録の図書資料と規則は異なるが,一書誌一所蔵(記述対象資料毎に別書誌レコードを作成)
  • すべての作業を図書館内でおこなう(館外に持出さない)
  • 担当業者: 書誌作成=紀伊國屋書店,画像撮影=東京都板橋福祉工場

公開

  • WINE(OPAC)にリンク情報を追加
  • 古典籍総合データベース用に抽出
  • 古典籍総合データベースに登録されることで学外検索エンジン(Googleなど)にクロールされる
  • 世界中から検索可能に

 

古典籍総合DBの特長
  1. すべての分野を網羅的に収録: 未発見,未調査の資料との出会い
  2. 資料全巻を精細画像で収録: 実物に迫る迫力・原本代替資料としての役割
  3. 外部からのアクセス制限なし: 見たい,知りたい資料をネット上で「閲覧」

世界中のどこからでも全巻の精細画像をダウンロード,プリントアウト可能(掲載等は別途手続き必要)

 

これまでの成果: 特色あるコレクションの紹介

特色あるコレクション

世界各地からの反響

  • 月間100万件以上のアクセス(2006年: 23万件→2013年: 170万)
  • 出版,放映への提供も年間約700件を数える(2005年: 179件→2011年: 703件)
  • 古典籍総合データベースが公開される以前は,掲載依頼などに対応するためには原物を確認してもらう必要があったが,現在はDBからダウンロードして利用してもらえるようになった

 

今後の展開

従来のデータベース=データ蓄積型: 所蔵資料を次々に電子化
今後のデータベース= 活用・蓄積複合型: 蓄積したデータをより使いやすくする

  • 関連情報の付加: 既存の研究成果(論文・翻刻)とのリンク
  • 研究成果発表の場としての機能: 収載資料を用いた研究促進(古典籍e-journal創刊?, 機関リポジトリへのリンクなど様々な可能性)

 

まとめ

2005年4月からはじまった古典籍総合データベース構築作業も8年を経て新しいデータベースのあり方を模索している。これまでのようにデータを蓄積し,公開するだけではなく,より積極的に情報を提供し,活用できるような仕組みが求められており,他機関の動向も注視しながら検討を進めていきたい。

 


 

感想

お話をうかがって,約30万点の古典籍すべてを対象して網羅的かつ継続的にプロジェクトとしてデジタル化・データベース化されているという点がやはりすごいと思いました。古典籍を所蔵する図書館として,今のユーザだけでなく将来のユーザのためにデータベースを構築するという強い思いが印象に残りました。

ところで,古典籍総合データベースから論文や解題などの研究成果へのリンクを作成してデータベースのさらなる活用をはかるということでしたが,掲載許可申請をシステム化してそれと古典籍総合データベースとを連携させると効率的に関連情報の収集・公開の仕組みができるようになるかもしれないと感じました。

 

なお,古典籍総合データベースについては早稲田大学図書館紀要にも詳しく紹介されていました。

松下眞也. 古典籍総合データベースの構築と展開. 早稲田大学図書館紀要. 2006, 53, p.1-24.  http://www.wul.waseda.ac.jp/Libraries/kiyou/53/pdf/09-kotenseki.pdf, (参照 2013-06-29).