文献管理ツールを超えたMendeley―機関内の研究支援プラットフォームとしての可能性

私の情報収集の情報源であるid:kitoneさんが追っかけをしている id:keitabandoさんのブログやTwitterで「Mendeley」という文献管理ツールの名前をたびたび目にするようになりました。文献管理ツールの存在自体は数年前からよく耳にしていましたが,オープンアクセス推進者でMyOpenArchiveを運営されているid:keitabando さんがどうして文献管理ツールに興味をもたれたのか少し気になっていました。

折りしもku-librarians勉強会大図研全国大会id:keitabandoさんからMendeleyに関するお話をうかがえると聞き,参加したところ文献管理ツールという枠組みを超えた大きな可能性を感じました。忘れないうちに自分用のメモとして記録しておきたいと思います。

なお,Mendeleyを含む主要な文献管理ツールの紹介やその基本機能については最近発表された下記の文献に非常にわかりやすく説明されています。未読の方は是非読んでください。

CA1775 - 大学図書館のサービスとしての文献管理ツール / 林 豊 | カレントアウェアネス・ポータル

Mendeleyの特徴

私が特に興味をもったのは下記の2つの機能です。

  1. PDF管理機能
  2. Mendeley Research Catalog (Web Catalog)

私の中ではそれまで文献管理ツールとは論文執筆の際に必要な引用文献や参考文献リストを簡単に作成できるようにあらかじめ論文情報を管理するためのもの,と理解していました。つまりメタデータ管理のためのツールというイメージが強かったのです。しかし,Mendeleyはメタデータだけでなく論文そのもの,論文がPDFとして流通することが多くなっている現在ではPDFに関連する様々な機能が実装されています。

ku-librarians勉強会ではMendeley Advisorの齋藤成達先生と木村祐先生からお話をうかがいましたが,おふたりともPDFファイルの管理機能,PDFからのレコード生成機能,PDFへのコメント共有機能など,PDFを中心としたデスクトップアプリの機能を活用されているご様子でした(参照: 第152回ku-librarians勉強会:Mendeleyワークショップ - 勉強会の予定・記録 - ku-librarians: 図書系職員勉強会 )。

どちらかというと論文執筆支援のためのメタデータ管理よりも,論文そのもののファイル管理をベースとしている点がMendeleyの特徴だと思いました。

そしてもうひとつの特徴的な機能がMendeley Research Catalogです。これによりMendeleyに登録された文献のメタデータがWebブラウザ版から検索可能になっています。Webベースでの文献管理や,グループでのメタデータの共有機能については他の文献管理ツールでも実装されていましたが,どちらかというと個人ベースで使用するものというイメージでした。一方,Mendeleyは世界中のユーザが登録したメタデータを共有することができ,ソーシャルな文献データベースとしての機能をもっていることが最大の特徴ではないかと私は思います。

研究支援プラットフォームとしての可能性

Mendeleyは無償でも使用することが可能ですが,Swets社から学術機関向けバージョンのMendeley Institutional Edition(Mendeley機関版)が提供されています。機関版を導入すれば,ファイル保存領域のアップグレード,機関ユーザの雑誌別登録・公開・ アクセス数といった利用統計,リンクリゾルバや購読雑誌の設定などが可能になるそうです(参照: Mendeley個人版と機関版の 紹介と導入事例変更する )。

保存領域の制限があるとはいえ,機関版の未導入機関でも既に無償版のユーザがかなりいるらしいという話を聞くと(参照: Mendeley WorkShop for ku-librarians August 3, 2012 at Kyoto University Library #kul152 « @KeitaBando変更する )わざわざ契約しなくてもよいのではないかという意見もでてくるかもしれません。また冒頭に紹介した林豊さんの記事にも次のような言及がありました。

「一方で、有料ツールを導入する大学図書館はその意義が問われることになるだろう。なぜ文献管理ツールを導入するのか、自館の一連のサービスにおける位置づけを改めて明確にすべきである。」

これは非常に重要な指摘だと思い,自分なりにMendeley機関版を使用してどのようなサービスを大学図書館が展開できるのか考えてみることにしました。ここからはMendeley機関版への期待もこめて,こんな機能があればこういうことができるかもしれないという妄想ですので,ご注意ください

まず考えられるのが機関リポジトリとの連携です。機関内の研究成果のアーカイブである機関リポジトリの重要なコンテンツとして雑誌掲載論文があります。雑誌掲載論文のリポジトリへの登録については,出版社の著作権ポリシーにより流通している出版社版の論文ではなく著者版(著者最終稿)を使用しなければならない場合があります。これまではリポジトリ担当者が論文公開後に文献データベースなどから機関内の研究者が著者に含まれている論文を抽出して著者版の提供をメールで依頼するなどして収集しているところも多かったと思います。id:keitabandoさんによれば既にMendeleyからSWORD経由でリポジトリに登録することも可能らしいのですが(これをうかがってMendeleyを強烈にプッシュしている理由がなんだかわかったような気がしました。気がしただけです。),もし機関グループという1つのグループを作成してそのグループ内だけでメタデータやPDFファイルの共有をすることができれば,論文作成時から効率的に著者版を収集することが可能になるかもしれません。

またMendeley機関版を使用して自分が執筆した論文のPDFファイルを登録することで自動的にレコード情報を抽出してメタデータを生成できれば,各機関の研究者業績データベースを効率的に構築することも可能でしょう。自然科学系に比べて人文社会科学系,特に日本語の学術雑誌はまだまだ電子媒体で流通していないことも多いとは思います。しかし,最終的に紙媒体になっている論文も電子ファイルとして作成されている時点で捕捉することで効率的に業績情報を収集できるのではないでしょうか。

さらに,機関版を導入している機関からMendeley Research Catalogにアクセスした場合に各機関で契約している文献データベースやディスカバリサービスが検索可能になれば,機関版導入の大きなメリットになるでしょう。

以上のように、(多分に妄想が含まれてはいますが)Mendeleyは文献探索から研究成果の発信までをサポートする機関内の研究支援プラットフォームになる可能性を秘めているのではないでしょうか。大学図書館が機関内の学術情報の流通を促進させ,研究活動の支援するための仕組みとして文献管理ツールを導入する日がきたらいいなぁと思います。