博士論文の流通を促進させるには
2012年11月30日の下記のCA-Rの記事を目にしたとき,驚きました。
博士論文のオープンアクセス化に向けて、学位規則改正案に関するパブリックコメントが募集開始 | カレントアウェアネス・ポータル
というのも,平成20年5月-6月におこなわれた国立情報学研究所による「博士論文ニーズ調査(利用面・発信面)」でも,博士論文の利便性向上のためには「博士論文を網羅的に検索できるデータベース」や「博士論文の本文の電子化・公開」が必要という声があがっていたからです。近年大学図書館では機関リポジトリ事業などを通して博士論文の電子化・公開を進めていましたが,今回の案のとおり改正されればそのアクセシビリティは飛躍的に向上することになります。
学術機関リポジトリ構築連携支援事業 │ ドキュメント │ 調査・報告資料 │ 博士論文ニーズ調査(利用面・発信面)結果報告
国立国会図書館に電子データを送信する件についても話題になっていますが,そうなると,それぞれの学位授与機関は博士論文の本文データとメタデータをいかに効率的に収集していくかが重要になってくると思いました。学位申請や審査の過程そのものをシステム化して,申請者,教務担当職員,指導教員・調査委員などの間でやりとりされる情報から効率的に本文データやメタデータを収集する仕組みをつくるのが理想的ではないかと思います。博士論文申請の条件として学術雑誌掲載論文が必要な場合はその書誌情報や,本文言語に関わらず日本語で作成される「論文内容の要旨」「論文審査の結果の要旨」なども博士論文のメタデータとして流通すれば,ファインダビリティも高まると感じました。
博士論文の網羅的に検索できるサービスを整備していくことも重要ではないかと思います。冊子体の博士論文を検索できるサービスとしては国立国会図書館のNDL-OPACと国立情報学研究所の学術研究データベース・リポジトリ 博士論文書誌データベースがありますが, なぜかCiNii BooksやCiNii Articlesでは検索できません。
また電子的に公開されている博士論文にアクセスできる検索サービスも分散しています。機関リポジトリ事業などで電子化・公開された博士論文の多くは国立情報学研究所のJAIROで,国立国会図書館の大規模デジタル化事業で電子化・公開された博士論文は国立国会図書館デジタル化資料で検索できますが,授与年や許諾条件によってどちらかにしか収録されていない論文もあります。国立国会図書館サーチ(NDL Search)では両方のデータベースを同時に検索することができますが,学位規則が改正された暁にはCiNii BooksかCiNii Articlesでも日本の電子学位論文すべてが検索できるようになればよいなぁと期待しています。