インストラクショナルデザインと大学図書館

九州大学附属図書館での図書館ガイダンスの取り組み*1 や,金沢大学附属図書館・静岡大学附属図書館・名古屋大学附属図書館の3大学によるILI-L育成事業*2 など,いま日本の大学図書館ではインストラクショナルデザイン(ID: Instructional Design)が話題になっています。

 

いま大学では「主体的な学び」や「アクティブ・ラーニング」などをキーワードとして,学生による主体的な学習活動を支援するための様々な取り組みがおこなわれています。学習支援の役割を担う大学図書館は,図書館以外の部署や組織とも連携して,これまで以上に積極的に学習支援に関与していく必要があるといわれています。

 

ただ「具体的にはどうすればよいの?」と言われると戸惑う図書館員も多いのではないでしょうか。そんな時に参考となるのが学習科学や教育工学の理論や知見です。そのなかでも学習活動を支援するための効果的・効率的・魅力的な教授方法に関するモデルと理論を提供してくれるのがインストラクショナルデザインです。

 

インストラクショナルデザインの詳細については図書館学徒未満さんのブログをご覧ください!

誰かを教えることになったあなたへ -IDへの招待 - 図書館学徒未満

 

ところで,北米では1999年頃から「Instructional Design Librarian」という肩書をもつ図書館員が登場していたらしい*3のですが,大学図書館員が身につけるべきスキルについて図書館管理職がどのように認識しているのかについて調査した論文がありました。

 

Shank, John D.; Dewald, Nancy H. Academic Library Administrators’ Perceptions of Four Instructional Skills. College & Research Libraries. 2012, vol. 73, no. 1, p. 78-93. http://crl.acrl.org/content/73/1/78.abstract

詳細は論文をみていただくとして,予想に反して館長クラスの管理職は,インストラクショナルデザインや教育工学といった新しいスキルよりもプレゼンテーションや教育スキルといった伝統的スキルの方を重視しているという結果になったそうです。

 

結論では館長クラスの管理職のバイアスのために図書館の教育活動における変化が抑制されるのではないかという懸念を示されていました。ただ,新しいスキルと伝統的スキルを比較した場合にどちらを重視するかという話であって,各スキル別の重要度に関する調査ではインストラクショナルデザインなどの新しいスキルが不要といっているわけではなさそうです。そもそも図書館員が備えているべきものとして,インストラクショナルデザインや教育工学のスキルが調査項目にあげられるということ自体がじわじわと浸透してきていることのあらわれなのではないかと私は思いました。

 

日本の大学図書館において,インストラクショナルデザインが図書館員に必要なスキルとして今後普及していくのかどうか注目していきたいと思います。

 

関連エントリ: インストラクショナルデザイン関係の文献紹介 (2013-07-03追記)

*1:兵藤健志, 天野絵里子, 中園晴貴. 大学図書館活用セミナーをリデザインする : インストラクショナル・デザインを意識した図書館ガイダンスの取り組み. 九州大学附属図書館研究開発室年報. 2012, 2011/2012, p. 24-31. http://hdl.handle.net/2324/24952, (参照2013-06-24) 

*2:Information Literacy Instruction (ILI) ライブラリアン育成事業. http://d.hatena.ne.jp/josei008-12/, (参照 2013-06-10).

*3:Shank, John D. The Blended Librarian: A Job Announcement Analysis of the Newly Emerging Position of Instructional Design Librarian. College & Research Libraries. 2006, vol. 67, no. 6, p. 514-524. http://crl.acrl.org/content/67/6/514.abstract, (参照 2013-06-10).